
はじめに:災害はいつでもどこでも起こりうる現実
私たち主婦が日々心配していることの一つが、「もし家族が外出中に災害に遭ったらどうしよう」ということではないでしょうか。内閣府のデータによると、自宅にいる時間は平均で1日16時間程度と言われていて、3割もの確率で外出中に被災することになります。つまり、家での備えだけでは不十分で、外出先での災害対策も同じくらい重要なのです。
近年、職場での防災対策が注目されており、厚生労働省は2025年1月に職場における熱中症対策の強化に向けて罰則付きで対応を義務づける方針を示し、4月15日、労働安全衛生規則が改正され、2025年6月から施行されます。これは自然災害だけでなく、様々な職場リスクへの対策が強化されていることを示しています。
今回は、職場や外出先で災害に遭った時の対処方法、場所別の避難方法、そして普段から準備しておくべき防災対策について、具体的で実践的な情報をお伝えします。家族の安全を守るために、ぜひ最後までお読みください。
職場防災の基本:オフィスでの災害対策方法
オフィス環境での災害リスクと対策の重要性
職場での災害対策は、単に個人の安全を守るだけでなく、企業全体の事業継続性にも関わる重要な課題です。防災マニュアルをよりわかりやすくするには、「5W2H」を意識して内容を作成するのがポイントです。特に大地震が発生した場合の避難手順では、「When(タイミングや手順):避難経路の確認と安否確認をすぐに行ったのち、避難場所へ移動」「Who(責任者や担当者):避難誘導の担当者」を明確にすることが重要です。
職場での災害対策を考える際、まず把握すべきは避難経路の確保です。避難経路(通路)幅は最低でも1.2mは必要で、用途や居室の有無によって最大2.3mもの幅員を設けなければなりません。また、両側に居室の出入口がある廊下:幅1.6メートル以上、その他の廊下(居室に通ずる廊下に限る):幅1.2メートル以上という建築基準法の規定があります。
職場で準備しておくべき防災グッズリスト
職場に常備しておきたい防災グッズは以下の通りです:
必須アイテム
– 懐中電灯(手回し充電式推奨)
– 携帯ラジオ
– 応急手当用品(絆創膏、消毒液、包帯)
– 非常食(3日分程度のカロリーメイトやクラッカー)
– 飲料水(500ml×6本程度)
– マスク(防塵・感染症対策)
– 軍手・作業用手袋
– 笛(救助要請用)
追加で準備したいアイテム
– 携帯電話充電器・モバイルバッテリー
– 現金(小銭含む)
– 身分証明書のコピー
– 家族の連絡先リスト
– 常備薬(持病がある場合)
– 簡易トイレ
– タオル・ハンカチ
– ビニール袋・ラップ
オフィスビルでの避難計画の立て方
オフィスの避難経路見直しの際は、エレベーターの動作についても確認しておきましょう。現在首都圏のエレベーター数は、およそ22万基以上で、大地震の際は数百、数千ものエレベータで同時に閉じ込め事故が発生している恐れがあるのです。
避難計画を立てる際の重要なポイント:
1. 避難場所の種類を理解する
– 避難場所は地震が発生した際に、火災や津波・落下物などから一時的に身を守るために避難する場所のこと
– 避難所は、自然災害の際に住居近辺の危険性がなくなるまで滞在したり、地震や洪水などの被害によって自宅に住むことが難しくなった方が一時的に生活したりするための場所
2. 複数の避難経路を確認
安全な避難のために、避難経路の事前確認は欠かせません。避難経路を決めるときのポイントは、避難経路の途中に危険を伴うものがないかを確認しておくことと、1パターンではなく複数の経路を想定しておくこと
3. 二方向避難の確保
「2方向避難」というのは、避難経路が二つ設けられている構造のことで、普段利用する階段とは違う方向のバルコニーなどに避難できるルートを作らなければなりません
外出先災害対策:場所を選ばない準備と心構え
常に持ち歩くべき防災グッズ
徒歩での移動中や電車・バスなどの公共交通機関を利用している時に多くの物を持つことはできませんが、最低限の備えだけは常に用意しておきましょう。日常的に持ち歩くべき防災グッズは以下の通りです:
ポーチに入れて常備するもの
– 身元や緊急連絡先が分かるもの(万が一身に何かあったときに家族などへの連絡のため)
– 常備薬、病名や処方薬のメモ(すぐに帰宅できなくなっても持病の薬を飲めるように)
– 笛(閉じ込められた時に周りに知らせるため)
– 携帯ラジオ(状況把握のため)
– 少量の飲料水・チョコレートなど(閉じ込められた時の最低限の飲食)
– ハンカチ(火災の煙や、埃対策)
– 小型ライト(夜間の被災での停電対策)
外出先での災害発生時の基本行動
地震は、在宅時に起きるとは限りません。勤務中や外出時に大地震が発生しても落ち着いて行動できるよう、最低限の備えや、場所に応じた対処法を普段からイメージしておくと良いでしょう。
外出先で災害が発生した際の基本的な行動順序:
1. 身の安全確保
– まずは落下物から頭を守る
– 安全な場所へ移動(机の下、頑丈な柱の近くなど)
– パニックにならず冷静に状況判断
2. 情報収集
– 携帯ラジオやスマートフォンで最新情報を入手
– 周囲の人と情報を共有
– 避難指示や注意喚起を確認
3. 避難行動
– 避難する時は原則として徒歩で避難しましょう。車を使うと渋滞を引き起こし、消防・救急活動などに支障を来します
– 携帯品は歩きやすいよう背負える範囲のものにとどめ、服装は活動しやすいものにしましょう
帰宅困難者になった場合の対処法
災害支援ステーションとは、災害時に帰宅困難者が一時的に立ち寄れる施設です。飲料水やトイレ、テレビやラジオによる災害情報の提供を行っています。身近なコンビニエンスストアやファミリーレストラン、ガソリンスタンドなどが協力施設になっている場合もあります。
帰宅困難者になった際の行動指針:
1. むやみに移動しない
– 安全が確認できるまで現在地で待機
– 正確な情報を収集してから行動を決定
2. 支援施設を活用
– 災害支援ステーションを確認
– コンビニやファミレスなどの協力施設を利用
3. 家族との連絡
– 災害用伝言ダイヤル(171)を活用
– SNSやメールでの安否確認
場所別避難方法:シーン別の具体的対応策
電車内での災害対応
電車内で災害が発生した場合、特に地震では急停車や停電が発生する可能性があります。
電車内での基本行動
1. つり革や手すりにしっかりとつかまる
2. 窓ガラスの破片に注意し、座席の下に身を隠す
3. 乗務員の指示に従って冷静に行動
4. 勝手にドアを開けたり、線路に降りたりしない
5. 車内放送や乗務員の指示を待つ
地下鉄特有の注意点
– 停電時は非常灯のみとなるため、小型ライトが有効
– 浸水の可能性がある場合は、より高い場所への避難を優先
– 煙が発生した場合は低い姿勢を保ち、ハンカチで口鼻を覆う
商業施設(デパート・ショッピングモール)での避難
商業施設は多くの人が集まる場所のため、パニックによる将棋倒しなどの二次災害に注意が必要です。
商業施設での避難手順
1. 初期対応
– エスカレーター使用中の場合は手すりにつかまり、急いで降りる
– エレベーター内にいる場合は全ての階のボタンを押し、最初に停止した階で降りる
– 陳列商品の落下に注意
2. 避難経路の確認
– 入場時に非常口の位置を確認する習慣をつける
– 店員の指示に従い、指定された避難経路を使用
– 押し合わずに順序良く避難
3. 避難時の注意点
– 荷物は最小限にし、両手を空けておく
– 子どもと一緒の場合は手をしっかりと繋ぐ
– 建物の外に出ても、さらに安全な場所まで移動
オフィスビルでの避難方法
一見すると整理が行き届いて十分な通路幅が確保できている場合でも、大きな地震が発生した際、オフィス家具が転倒して動線をふさいでしまう可能性もあります。
オフィスビルでの避難ポイント
1. 机の下への避難
– 揺れを感じたらすぐに机の下に潜る
– 机の脚をしっかりと掴み、机と一緒に移動
2. 避難経路の確保
– オフィスビルや商業ビルの火災で度々取り上げられる問題が、廊下や非常口付近が備品で塞がれていた事例です
– 事前に避難経路上の障害物を確認・除去
3. 階段での避難
– エレベーターは絶対に使用しない
– 手すりを使って慎重に降りる
– 上からの落下物に注意
車での移動中の災害対応
車での移動中に災害が発生した場合の対応は、災害の種類によって異なります。
地震の場合
1. 急ブレーキは避け、ゆっくりと路肩に停車
2. エンジンを切り、ラジオで情報収集
3. 車から離れる際はキーをつけたまま、ドアロックはしない
4. 車検証や貴重品を持って徒歩で避難
水害の場合
1. アンダーパスや低い場所を避ける
2. 冠水した道路は絶対に進入しない
3. 車が浸水し始めたら、早めに車外へ脱出
4. 水位が上がる前に高台へ避難
家族で作る外出先災害対応計画
家族間の連絡方法と集合場所の決定
外出先での災害対策で最も重要なのは、家族間での連絡方法と集合場所を事前に決めておくことです。
連絡方法の多重化
1. 災害用伝言ダイヤル(171)
– 使い方を家族全員が覚える
– 定期的に訓練日に実際に使ってみる
2. SNSや各種アプリ
– LINE、Twitter、Facebookなど複数の手段を確保
– 家族専用のグループチャットを作成
3. 遠方の親戚を通じた連絡
– 災害地域外の親戚や友人を連絡中継点として活用
– 事前にその方の連絡先を家族全員が把握
集合場所の設定
– 第一集合場所:自宅近くの公園や学校
– 第二集合場所:少し離れた広域避難場所
– 第三集合場所:遠方の親戚宅など
子どもの外出時安全対策
子どもが一人で外出する際の安全対策は、親として特に重要な課題です。
子どもに持たせる防災ポーチの中身
– 身分証明書(子ども用の身元確認カード)
– 家族の連絡先(複数の連絡先を記載)
– 小さな笛
– 絆創膏数枚
– 小銭(公衆電話用)
– 小さなライト
– あめやラムネなどの糖分補給食品
子どもへの災害教育
1. 基本的な避難行動の練習
2. 「おかしもすし」の合言葉(おさない、かけない、しゃべらない、もどらない、すばやく、しらせる)
3. 困った時に頼れる大人の見分け方
4. 連絡方法の練習
高齢家族や持病のある家族への特別配慮
家族に高齢者や持病のある方がいる場合は、より詳細な準備が必要です。
高齢者向けの配慮
– 歩行補助具の準備(杖、手押し車など)
– 薬の管理(お薬手帳のコピーを複数箇所に保管)
– 緊急連絡先の明記(本人が話せない場合を想定)
– かかりつけ医の連絡先
持病のある家族への配慮
– 常用薬の予備確保
– 病状説明カードの作成
– 医療機関の情報収集
– 特別な医療機器が必要な場合の代替手段
災害時の情報収集と判断基準
正確な情報源の見分け方
災害時には様々な情報が飛び交いますが、正確な情報を見分けることが重要です。
信頼できる情報源
1. 公的機関
– 気象庁
– 消防庁
– 地方自治体の公式サイト・SNS
– NHKなどの報道機関
2. 避難判断の基準
集中豪雨や台風などによって、水害や土砂災害などの災害が発生するおそれがあるとき、災害発生の危険度と住民の方々がとるべき行動を5段階の「警戒レベル」を用いてお伝えしています。警戒レベル4避難指示が出たら全員が避難です
警戒レベルに基づいた行動基準
警戒レベルシステムを理解し、適切なタイミングで行動することが生命を守る鍵となります。
各警戒レベルでの行動
– レベル1:災害への心構えを高める
– レベル2:避難に備え、ハザードマップ等により避難行動を確認
– レベル3:高齢者等は避難、その他の人は避難準備
– レベル4:全員避難
– レベル5:緊急安全確保(既に災害発生・切迫)
デマや誤情報への対処法
災害時にはデマや誤情報が拡散しやすくなります。
情報の真偽を確認する方法
1. 複数の情報源で確認
2. 公式機関の発表と照合
3. 感情的な表現や極端な内容は疑う
4. 拡散前に情報の出典を確認
まとめ:日常からの備えが家族を守る
災害による被害をできるだけ少なくするためには、一人ひとりが自ら取り組む「自助」、地域や身近にいる人同士が助け合って取り組む「共助」、国や地方公共団体などが取り組む「公助」が重要だと言われています。その中でも基本となるのは「自助」、自らの命は自らが守る意識を持ち、一人ひとりが自分の身の安全を守ることです。
外出先での災害対策は、一見複雑に思えるかもしれませんが、基本的なポイントを押さえれば決して難しいものではありません。重要なのは、「もしもの時」を想定して準備することです。
今すぐ始められる5つのアクション
1. 職場の避難経路を確認する
明日職場に行ったら、まず避難経路と避難場所を確認してください。エレベーターではなく、階段での避難ルートを実際に歩いてみることをお勧めします。
2. 外出時防災ポーチを作る
今回ご紹介した最低限の防災グッズをポーチにまとめ、普段のバッグに入れて持ち歩く習慣をつけましょう。
3. 家族会議で連絡方法を決める
災害用伝言ダイヤル(171)の使い方を家族で練習し、集合場所を具体的に決めておきましょう。
4. よく行く場所の避難経路をチェック
普段よく利用するショッピングモール、駅、病院などの避難経路を意識的に確認する習慣をつけましょう。
5. 定期的な見直しと訓練
震災時の避難シミュレーションとして役立つのが「防災ピクニック」。日常の中で、避難バッグを持ち、自宅から避難場所まで歩き、非常食を食べてみるなど、避難方法や非常食を実際に試してみることで、今の備えが十分であるか確認することができます
最後に:家族を守るために
災害はいつ起こるかわかりません。しかし、適切な準備と知識があれば、被害を最小限に抑えることができます。今回お伝えした内容を参考に、ぜひご家族で災害対策について話し合ってください。
特に主婦の皆さんは、家族の安全を守る要となる存在です。日頃からの備えと正しい知識が、いざという時に家族全員の命を守ることにつながります。
「備えあれば憂いなし」という言葉があるように、今日から少しずつでも災害対策を進めていきましょう。完璧を目指さず、できることから始めることが大切です。
また、地域の防災訓練に積極的に参加することもお勧めします。実際に体験することで、知識だけでは分からない課題や改善点が見えてくるはずです。
皆さんとご家族の安全を心から願っています。災害に強い家族を目指して、今日から一歩ずつ準備を始めてみてください。