私は東日本大震災を経験してから、独学で防災を学んできました。当時、近所に住む一人暮らしのお年寄りが、停電で在宅酸素が止まりかけて大変な思いをしたという話を後から聞き、「本人の努力だけではどうにもならない備え」があることを強く感じました。高齢者や、体が不自由な方・認知症の方など「要配慮者」と呼ばれる方の防災は、本人だけでなく、家族や地域の仕組みとセットで考える必要があります。このページでは、①避難行動要支援者制度と個別避難計画、②日常の備え(お薬手帳・補聴器・杖など)、③認知症の人への備え、④福祉避難所について、⑤印刷用チェックリスト、⑥Q&Aの順に整理しています。
避難行動要支援者制度と個別避難計画を知っておく
要介護度3〜5の方や、身体障害者手帳1級・2級をお持ちの方、一人暮らし・高齢者のみで暮らしている方などは、市区町村が作成する「避難行動要支援者名簿」に登録される対象になり得ます。この名簿は、災害が起きたときに自治体や地域の支援者が安否確認・避難支援を行うための土台になります。
避難行動要支援者名簿とは
対象になるかどうか、また名簿への登録方法は市区町村によって案内が異なります。ご本人やご家族が「対象かもしれない」と思ったら、市区町村の福祉担当窓口や地域包括支援センターに問い合わせてみることをおすすめします。名簿情報は、本人の同意のもとで、消防・警察・民生委員・自主防災組織など、平時からの見守りに関わる関係者と共有される仕組みです。
個別避難計画とは
令和3年5月の災害対策基本法改正により、市区町村には「個別避難計画」の作成が努力義務として課されました。個別避難計画とは、誰が(避難支援者)・どこへ(避難先)・どのように(必要な配慮)避難するかを、要支援者一人ひとりについてあらかじめ決めておくものです。「いざというとき誰が助けに来てくれるか」を、本人・家族・自治体・地域の支援者の間で事前に共有しておくことが、命を守る備えの土台になります。まだ計画がない場合は、市区町村の防災担当や地域包括支援センターに相談してみてください。
日常の備え:お薬手帳・補聴器・杖・入れ歯など
高齢者や持病のある方の備えは、一般的な防災グッズに「本人の体調・生活を支える物」を上乗せする形で考えます。
常備薬とお薬手帳の備え
処方薬は普段から少し多めに確保し、災害時にも2週間分程度を目安に備えておくと安心です。お薬手帳のコピー(またはスマートフォンでの写真)を、本人と家族それぞれが持っておくと、かかりつけ薬局が使えない状況でも、避難先で同じ薬を受け取りやすくなります。持病や薬の管理について具体的に知りたい方は、病院が「機能停止」したらどうする?持病の薬・透析・在宅酸素の備えも参考にしてください。
補聴器・杖・入れ歯など福祉用具の予備
補聴器の予備電池、杖や歩行器の予備(または応急的な代用品)、入れ歯洗浄剤、老眼鏡の予備などは、無くなると生活の質に直結するにもかかわらず、後回しにされがちな備えです。避難生活が長引くほど、これらの「小さいけれど本人には欠かせない物」の有無が負担の差になります。食事面では、柔らかいレトルトのおかゆなど、噛む力・飲み込む力に配慮した非常食もあわせて備えておくと安心です。
認知症の人への備え
認知症の方は、災害時の環境変化そのものが大きな負担になりやすく、また万一はぐれてしまった場合の行方不明リスクも考えておく必要があります。
認知症高齢者等SOSネットワーク・見守りシール
多くの市区町村では、認知症等により行方不明になった方を早期に発見・保護するための「見守り・SOSネットワーク」が整備されています。事前に名前・連絡先・身体的特徴などを登録しておくことで、行方不明時に警察・自治体・地域の協力機関(郵便局・タクシー会社・コンビニなど)へ一斉に情報が共有される仕組みです。衣服や持ち物に貼るタイプの「見守りシール」や、GPS機器の貸与を行っている自治体もあります。お住まいの地域包括支援センターや高齢福祉の窓口で、事前登録の方法を確認しておくことをおすすめします。
環境変化への備え
使い慣れたタオルや写真など、本人が安心できる物を持ち出せるようにしておくこと、また普段の生活リズムをできるだけ崩さない工夫(食事や就寝の時間帯を保つなど)が、避難生活での混乱を和らげる助けになると言われています。
福祉避難所について知っておくこと
災害時、一般の指定避難所での生活が難しい方のために、市区町村が指定する二次的な避難所が「福祉避難所」です。
対象者と「直接避難」の仕組み
福祉避難所は、避難行動要支援者名簿に記載された方のうち、あらかじめ市区町村から対象として指定された方が利用できます。令和3年の内閣府ガイドライン改定により、個別避難計画に基づいて、まず一般の指定避難所を経由せず、福祉避難所へ直接避難できる仕組み(直接避難)も制度化されました。ただし対象になるのは事前に指定を受けている方に限られるため、指定を受けていない方はまず近くの指定避難所へ避難することになります。ご自身・ご家族が対象になり得るかは、事前に市区町村へ確認しておくと安心です。
一般の避難所との違い
福祉避難所は、特別養護老人ホームや障害者支援施設など、バリアフリー設備や介助スタッフのいる施設が活用されます。一般の指定避難所と福祉避難所、在宅避難のどちらを選ぶべきか迷う場合は、避難所と在宅避難、どちらを選ぶ? 完全ガイドもあわせてご覧ください。
紘一のひとこと:
個別避難計画も福祉避難所の指定も、「災害が起きてから」ではなく「平時に」市区町村へ相談して初めて動き出す仕組みです。私自身、取材を通じて感じたのは、こうした制度は本人・家族から声を上げないと存在すら知られずに終わってしまうことが多いということでした。まずは一度、お住まいの自治体の窓口に聞いてみることが、最初の一歩になると思います。
印刷して使える 高齢者・要配慮者の防災チェックリスト
【制度・計画まわり】
- ☐ 避難行動要支援者名簿への登録対象か、市区町村に確認している
- ☐ 個別避難計画(避難支援者・避難先)を作成、または相談を始めている
- ☐ 福祉避難所の対象になるか、事前に確認している
【日常の備え】
- ☐ 処方薬を2週間分程度と、お薬手帳のコピーを備えている
- ☐ 補聴器の予備電池、杖・老眼鏡の予備を用意している
- ☐ 入れ歯洗浄剤、飲み込みやすいレトルト食(おかゆ等)を備えている
- ☐ 介護用おむつなど、本人に必要な衛生用品を備えている
【認知症がある場合】
- ☐ 見守り・SOSネットワークへの事前登録を確認している
- ☐ 本人が安心できる物(タオル・写真等)を持ち出せるようにしている
- ☐ 名前・連絡先を記載した見守りシール等を身につけている
よくある質問
避難行動要支援者名簿には自分で登録できますか?
登録の申請方法は市区町村ごとに異なります。多くの場合、福祉担当窓口や地域包括支援センターで相談・申請ができます。まずはお住まいの自治体に問い合わせることをおすすめします。
個別避難計画は誰が作るのですか?
市区町村が中心となり、本人・家族、ケアマネジャーなどの福祉専門職、地域の避難支援者と協力して作成します。まだ計画がない場合は、担当のケアマネジャーや自治体窓口に相談してみてください。
福祉避難所に直接避難できるかどうかは、どこで確認できますか?
お住まいの市区町村の防災担当・福祉担当窓口で確認できます。対象は事前に指定を受けた方に限られるため、確認していない場合はまず近くの指定避難所への避難を前提に備えておいてください。
常備薬が手元にないまま避難した場合はどうすればいいですか?
お薬手帳(コピーやスマートフォンの写真でも可)があれば、避難先の医療機関や薬局で同じ薬を確認してもらいやすくなります。私は医療の専門家ではないため、実際の服薬に関する判断は必ず医師・薬剤師にご確認ください。
認知症の家族が行方不明になったら、まず何をすればいいですか?
ためらわず、すぐに警察と市区町村へ連絡することが基本です。事前に見守り・SOSネットワークへ登録していれば、地域の協力機関へ速やかに情報が共有されます。登録がまだの場合も、地域包括支援センターに相談してみてください。
まとめ
- 高齢者・要配慮者の防災は、本人の備えだけでなく「避難行動要支援者名簿」「個別避難計画」など自治体の制度とセットで考える
- お薬手帳・補聴器の予備電池・杖・入れ歯洗浄剤など、本人の生活を支える物を優先して備える
- 認知症の方は、見守り・SOSネットワークへの事前登録が、万一のはぐれ・行方不明時の早期発見につながる
- 福祉避難所への「直接避難」は、事前に市区町村から対象指定を受けている場合に限られる。まずは自治体へ確認を
- これらの制度は「平時の相談」から始まる。災害が起きる前に、一度自治体の窓口に聞いておくことが第一歩
📖 特集:対象者別の防災シリーズ
参考・出典
- 内閣府「避難行動要支援者の避難行動支援に関すること」
- 内閣府「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針の改定(令和3年5月)」
- 内閣府(防災担当)「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」
- 厚生労働省「認知症の人が安心して暮らせる地域に向けて(見守り・SOSネットワークの取組事例)」
最終更新日: 2026年9月27日
このページは一般的な防災情報の整理を目的としており、医療・介護・福祉制度に関する専門的な判断の代わりになるものではありません。避難行動要支援者名簿への登録や個別避難計画、福祉避難所の対象については、必ずお住まいの市区町村にご確認ください。服薬・持病に関することは医師・薬剤師にご相談ください。
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