私は東日本大震災を経験してから、独学で防災を学んできました。あの日、家族と連絡が取れるまでの時間がとても長く感じたことを、今でもよく覚えています。後になって一人暮らしをしていた知人から「揺れが収まったあと、自分が無事だと誰にも伝えられず、誰からも確認されないのが一番心細かった」という話を聞き、一人暮らしには一人暮らしならではの備えがあると考えるようになりました。
この記事では、官邸・消防庁・東京都などの公的な情報をもとに、一人で暮らしている人が今日からできる防災を、「安否連絡」「部屋の安全」「備蓄」「外出先での被災」「ご近所とのつながり」の5つに分けて整理しました。
一人暮らしの防災で見落としやすいこと
家族と暮らしていれば、誰かがけがに気づいてくれたり、備蓄を分担したりできます。一人暮らしでは、そのすべてを自分ひとりでこなす必要があります。
特に見落としやすいのが、「自分が無事かどうかを、誰も知らない状態になりやすい」という点です。離れて暮らす家族は、テレビで被災地の映像を見ながら、あなたからの連絡を待っています。逆に、もし部屋で動けなくなっても、誰にも気づかれにくいというリスクもあります。
だからこそ、一人暮らしの防災は「モノの備え」と同じくらい「人とのつながりの備え」が大切だと私は考えています。
安否を伝える先と方法を決めておく
連絡する相手を2〜3人決める
まずは、災害時に「無事だよ」と伝える相手を決めておきましょう。実家の家族、きょうだい、親しい友人など、2〜3人いると安心です。相手にも「何かあったらこの方法で連絡する」と事前に伝えておくことが大切です。
災害用伝言ダイヤル「171」と災害用伝言板
大きな災害の直後は、電話がつながりにくくなることがあります。首相官邸の防災ページでは、安否確認の手段として次の2つが紹介されています。
災害用伝言ダイヤル 局番なしの「171」に電話をかけると伝言を録音でき、自分の電話番号を知っている家族などが、伝言を再生できます。
(出典:首相官邸「災害に対するご家庭での備え」)
携帯電話のインターネットサービスを使って文字で無事を登録できる「災害用伝言板」もあります。どちらも毎月1日・15日、正月三が日、防災とボランティア週間(1月15日〜21日)、防災週間(8月30日〜9月5日)に体験利用ができます。一度も使ったことがないと、いざというときに手順が分からず焦ってしまいます。次の1日か15日に、家族と一緒に試してみることをおすすめします。
SNSや家族のグループトークも「予備」に
普段使っているメッセージアプリやSNSは、電話より届きやすい場合もあります。ただし通信状況は災害ごとに違うため、1つの手段に頼らず、2つ以上の連絡手段を決めておくのが安心です。スマートフォンの電池が切れると何もできなくなるので、モバイルバッテリーも忘れずに備えておきましょう。
ワンルームこそ「家具の配置」が命を守る
首相官邸の防災ページでは、阪神・淡路大震災や新潟県中越地震で、倒れてきた家具の下敷きになって亡くなったり、大けがをしたりした方が多かったことに触れ、「家具は必ず倒れるもの」と考えて対策するよう呼びかけています。
ワンルームや1Kの部屋は、寝る場所・くつろぐ場所・収納がすべて同じ空間にあります。寝ている頭の近くに背の高い棚や本棚がないか、今夜寝る前に一度見回してみてください。
寝る場所の周りに背の高い家具を置かない
ベッドや布団の周りには、できるだけ背の高い家具を置かないようにしましょう。置く場合は、倒れたときに頭に当たらない向きにする、出入り口をふさがない位置にする、といった工夫が大切です。重い物は棚の下段に、軽い物を上段に置くだけでも、倒れにくさが変わります。
賃貸でも工夫できる固定の方法
賃貸住宅では「壁に穴を開けられないから固定できない」とあきらめてしまう人も多いと思います。天井との間に設置する突っ張り式の器具や、家具の下に敷く粘着マット・ストッパーなど、壁を傷つけにくい方法もあります。ただし、器具によっては跡が残ることもあるため、気になる場合は管理会社や大家さんに事前に確認しておくと安心です。固定の具体的な方法は、消防庁「地震による家具の転倒を防ぐには」が図入りで詳しく解説しています。
枕元に置いておきたいもの
夜中に揺れたとき、暗い部屋でガラスの破片を踏んでしまうことがあります。首相官邸のページでも、手の届くところに懐中電灯・スリッパ・ホイッスルを備えておくことがすすめられています。ホイッスルは、万が一閉じ込められたときに、少ない体力で自分の居場所を知らせるための道具です。一人暮らしでは、助けを呼ぶ手段を自分で持っておくことが特に大切です。
備蓄は「1人分×1週間」をコンパクトに
首相官邸のページでは、備蓄の目安として次のように示されています。
飲料水 3日分(1人1日3リットルが目安)
非常食 3日分の食料として、ご飯(アルファ米など)、缶詰、干物、乾パンなど
※大規模災害発生時には、「1週間分」の備蓄が望ましいとされています。(出典:首相官邸「災害に対するご家庭での備え」)
一人分で計算すると、1週間分の飲料水は3リットル×7日=約21リットル。2リットルのペットボトルなら約11本、ケース(6本入り)で2箱弱です。ワンルームでも、ベッドの下やクローゼットの奥に入れておける量だと思います。
「いつもの食品」を少し多めに買う
一人暮らしは、非常食を買っても賞味期限切れにしてしまいがちです。そこでおすすめなのが、普段食べているレトルトご飯やカップ麺、缶詰、パスタなどを少し多めに買っておき、古いものから食べて買い足す「ローリングストック」です。農林水産省「災害時に備えた食品ストックガイド」にも、日常の食品を活用した備え方がまとめられています。カセットコンロとボンベがあれば、温かい食事がとれるので気持ちの面でも助けになります。
トイレと生活用水も忘れずに
見落としがちなのが、トイレの備えです。断水するとトイレが流せなくなるため、携帯トイレ・簡易トイレも備蓄品に入れておきましょう。官邸のページでも、飲料水とは別に、トイレを流したりするための生活用水が必要だとされています。浴槽に水を張っておく習慣も、一人暮らしでもできる備えのひとつです。トイレの備えについてはトイレ対策完全ガイドで詳しくまとめています。
外出先で被災したときのこと
一人暮らしの方は、仕事や学校で日中は家にいないことも多いと思います。大きな地震が起きたとき、自宅から離れた場所にいる可能性は十分にあります。
東京都では帰宅困難者対策条例を制定し、「一斉帰宅の抑制」を呼びかけています。災害直後に多くの人が一斉に歩いて帰ろうとすると、道路や駅に人があふれ、救助活動の妨げになったり、群衆事故や余震による二次被害に巻き込まれたりするおそれがあるためです。
「家で誰かが待っているわけではないから、急いで帰らなくてもいい」と割り切れるのは、一人暮らしの強みでもあります。職場や安全な施設にとどまり、状況が落ち着いてから帰るという選択肢を、あらかじめ頭に入れておきましょう。通勤バッグには、モバイルバッテリー、少量の飲み物とお菓子、常備薬、マスクなどを入れておくと安心です。
ご近所と「顔見知り」になっておく
一人暮らしで隣に誰が住んでいるか知らない、という人も多いと思います。けれども、災害のときに最初に助け合えるのは、遠くの家族ではなく近くにいる人です。
大げさな近所付き合いは必要ありません。すれ違ったときに会釈をする、ゴミ出しのときにあいさつをするだけでも、「あの部屋には人が住んでいる」と知ってもらえます。それが、いざというときの声かけや安否確認につながります。
あわせて、管理会社や大家さんの緊急連絡先をスマートフォンと紙の両方に控えておきましょう。避難場所や避難所は、国土交通省「ハザードマップポータルサイト」やお住まいの自治体のホームページで確認できます。引っ越してきたばかりの方は、特に早めの確認をおすすめします。
体調を崩したとき・けがをしたときの備え
一人で暮らしていると、体調を崩したときに代わりに動いてくれる人がいません。持病がある方は、常備薬を少し多めに手元に置いておくこと、お薬手帳や保険証のコピー(またはスマートフォンの写真)を持ち出し品に入れておくことが大切です。薬の量や種類については、自己判断で変えず、かかりつけの医師や薬剤師に相談してください。
紘一のひとこと:
一人暮らしの防災は、「全部自分でやらなければ」と気負うと続きません。私のおすすめは、まず次の1日か15日に171を家族と試してみること、そして今夜、枕元に懐中電灯とスリッパを置いてみることです。小さな一歩でも、やったかどうかで、いざというときの落ち着き方が違ってくると感じています。
印刷して使える 一人暮らしの防災チェックリスト
【安否連絡】
- ☐ 災害時に連絡する相手を2〜3人決め、相手にも伝えている
- ☐ 災害用伝言ダイヤル171・災害用伝言板を体験利用したことがある
- ☐ モバイルバッテリーを充電した状態で備えている
【部屋の安全】
- ☐ 寝る場所の近くに背の高い家具を置いていない
- ☐ 家具の転倒防止器具(突っ張り式・粘着マットなど)を付けている
- ☐ 枕元に懐中電灯・スリッパ・ホイッスルを置いている
【備蓄】
- ☐ 飲料水を1人分×最低3日分、できれば1週間分(約21リットル)備えている
- ☐ 普段の食品を多めに買うローリングストックを続けている
- ☐ 携帯トイレ・簡易トイレとカセットコンロを備えている
【外出時・ご近所・健康】
- ☐ 通勤バッグにモバイルバッテリー・飲み物・常備薬を入れている
- ☐ 管理会社・大家さんの緊急連絡先を控えている
- ☐ 自宅近くの避難場所・避難所を確認している
- ☐ お薬手帳・保険証のコピーを持ち出し品に入れている
よくある質問
一人暮らしでも、備蓄は本当に1週間分必要ですか?
首相官邸のページでは、最低3日分、大規模災害時には1週間分の備蓄が望ましいとされています。一人分なら飲料水は約21リットルと、ワンルームでも置ける量です。いきなり全部そろえなくても、まずは3日分から始め、ローリングストックで少しずつ増やしていくのがおすすめです。
賃貸で壁に穴を開けられない場合、家具の固定はどうすればいいですか?
天井との間に設置する突っ張り式の器具や、家具の下に敷く粘着マットなど、壁を傷つけにくい方法があります。器具によっては跡が残ることもあるため、気になる場合は管理会社や大家さんに確認しておくと安心です。固定が難しい家具は、寝る場所から離して配置することも有効です。
災害用伝言ダイヤル171はいつでも練習できますか?
いつでも使えるわけではありませんが、毎月1日・15日、正月三が日、防災とボランティア週間(1月15日〜21日)、防災週間(8月30日〜9月5日)に体験利用ができます。家族と一緒に、録音と再生の両方を試しておくと安心です。
会社にいるときに大地震が起きたら、すぐ帰ったほうがいいですか?
東京都では帰宅困難者対策条例を制定し、一斉帰宅の抑制を呼びかけています。災害直後にむやみに移動を始めると、混雑や二次被害に巻き込まれるおそれがあるため、職場や安全な施設にとどまり、状況が落ち着いてから帰ることを考えておきましょう。会社の方針も事前に確認しておくと安心です。
近所に知り合いがいなくても大丈夫ですか?
深い付き合いがなくても、会釈やあいさつを交わすだけで「この部屋には人が住んでいる」と知ってもらえます。それが災害時の声かけや安否確認のきっかけになります。あわせて、管理会社や大家さんの緊急連絡先を控えておくことも大切です。
まとめ
- 一人暮らしの防災は「モノの備え」と同じくらい「安否を伝える相手と方法」を決めておくことが大切
- 災害用伝言ダイヤル171・災害用伝言板は、毎月1日・15日などの体験利用日に一度試しておく
- ワンルームは寝る場所の周りの家具配置が重要。賃貸でも突っ張り式器具や粘着マットで工夫できる
- 備蓄は1人分×最低3日分、できれば1週間分(飲料水約21リットル)。ローリングストックで無理なく続ける
- 外出先で被災したら、一斉帰宅を控えて安全な場所にとどまることも選択肢に
- あいさつ程度のご近所付き合いと、管理会社の連絡先の確認が、いざというときの助けになる
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参考・出典
- 首相官邸「災害に対するご家庭での備え」
- 総務省消防庁「地震による家具の転倒を防ぐには」
- 農林水産省「災害時に備えた食品ストックガイド」
- 総務省「災害用伝言サービス」
- 東京都防災ホームページ「帰宅困難者対策」
- 国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
最終更新日: 2026年10月6日
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