2026年7月28日に発生した令和8年熊本地震では、宇城市・八代郡氷川町で最大震度7を観測し、8月4日時点で住宅被害は7,285棟(全壊700棟、半壊1,045棟、一部破損5,540棟)にのぼっています。
参考: 国土交通省「令和8年熊本地震における被害と対応について」
このニュースを見て、「うちの火災保険、地震のときも使えるんだっけ?」と、あらためて保険証券を引っ張り出した方もいるのではないでしょうか。実は私自身、東日本大震災のときに「火災保険に入っているから大丈夫」と思い込んでいて、後から地震保険は別契約だと知って愕然とした一人です。
今回は、①事前にできるお金の備え(火災保険・地震保険)と、②被災してしまったときに公的支援を受けるための証拠の残し方を、公式情報をもとに整理してお伝えします。
火災保険だけでは、地震の被害は補償されない
財務省の説明によると、通常の火災保険は地震・噴火またはこれらによる津波を原因とする火災・損壊・埋没・流失による損害を補償しません。つまり、地震で家が壊れても、地震が原因で起きた火災で家が焼けても、火災保険単体では保険金が下りないということです。
この損害をカバーするのが「地震保険」で、法律上、火災保険とセットでのみ加入できる仕組みになっています(単独加入は不可)。すでに火災保険に入っている方も、契約の途中から地震保険を追加することができます。
参考: 財務省「地震保険制度の概要」
地震保険の補償額には上限がある
地震保険の保険金額は、火災保険金額の30〜50%の範囲で設定し、建物は最高5,000万円、家財は最高1,000万円が上限です。つまり地震保険だけでは、建て替え費用の全額をまかなえるとは限りません。あくまで「当面の生活を立て直すための資金」という位置づけだと理解しておくことが大切です。
この制度は民間の保険会社が負う保険責任を政府が再保険する官民一体の仕組みで、1回の地震での支払限度額は12兆円規模に設定されています。どの保険会社で契約しても保険料・補償内容が同じなのはこのためです。
参考: 財務省「地震保険制度の概要」
地震保険の加入率は約7割。あなたの家は?
損害保険料率算出機構の発表(2025年8月26日)によると、2024年度の地震保険付帯率(新規の火災保険契約のうち地震保険も付けた割合)は全国平均70.4%で、2003年度以降22年連続の増加、統計開始(2001年度)以降の過去最高値となっています。一方で、既契約も含めた世帯加入率は35.4%にとどまっており、まだ3世帯に2世帯近くが未加入という計算になります。
「新しく火災保険に入るときは付ける」人が増えている一方、昔から入っている火災保険を見直していない世帯は取り残されがちです。この機会に、ご自宅の保険証券を確認してみてください。
参考: 損害保険料率算出機構 ニュースリリース(2025年8月26日)
地震保険料は税金の控除も受けられる
地震保険に加入すると、確定申告や年末調整で「地震保険料控除」が受けられます。国税庁によると、年間の地震保険料が5万円以下なら全額、5万円を超える場合は一律5万円が所得税の控除対象になります(住民税は上限2万5,000円)。「保険料がもったいない」と感じている方も、実質的な負担は控除分だけ軽くなる点は知っておいて損はありません。
もし被災したら、まず身の安全を確保してから記録を
最優先は命の安全です。建物の倒壊・火災・二次災害の危険がある場合は、無理に片付けや撮影をせず、まず安全な場所に避難してください。安全が確保できてから、以下の記録作業に入ります。
「片付ける前に」写真を残す ― り災証明書のために
ウェザーニュースが今回の熊本地震を受けて出した注意喚起(2026年7月31日)によると、片付けや修理を始める前に、家の被害状況を写真で記録しておくことが重要だとされています。壊れたものを先に処分してしまうと、後から被害の程度を証明できなくなるおそれがあるためです。
撮影のポイントは次のとおりです。
- 建物の全景を4方向から(遠景で建物全体が分かるように)
- 被害箇所ごとに「遠景+近景」の2枚セット(被害箇所全体が分かる写真と、損傷部分のアップの両方)
- 浸水を伴う場合は、メジャーを当てて浸水の深さが分かるように撮影
- 外壁・屋根・基礎・内壁・天井・床・ドア・ふすま・窓・キッチン・浴室・トイレなど、被害を受けた箇所はすべて記録
参考: ウェザーニュース「熊本地震 片付け前に『り災証明書』申請のための写真撮影を」(2026年7月31日)
そもそも「り災証明書」とは何のためのもの?
り災証明書とは、市区町村が住まいの被害程度を公的に証明する書類です。市区町村への申請後、職員による現地調査を経て、内閣府の被害認定基準に基づき「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」「準半壊」などの区分が判定されます(おおよその損害割合の目安は、全壊が50%以上、大規模半壊が40%台、中規模半壊が30%台、半壊が20%台、準半壊が10%台とされています)。
この区分によって、後述する被災者生活再建支援金をはじめ、税・保険料の減免、応急修理制度などさまざまな公的支援の対象・金額が変わるため、被災された方にとって非常に重要な書類です。
参考: 空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”「『罹災証明書』の発行で受けられる支援と必要な手続きを解説」、防災エナジー「罹災証明書とは?」
意外と知られていない、保険金請求に「り災証明書は不要」という事実
ここが誤解しやすいポイントです。日本損害保険協会は今回の令和8年熊本地震の被災者向けお知らせで、「保険金請求時に、地方自治体から交付される罹災証明書の提出は不要」としています。損保各社は自社の調査員による立会い調査、または写真等を自己申告する方式で被害を確認するため、り災証明書の発行を待たずに保険金請求の手続きを始められます。
つまり、「り災証明書(公的支援用)」と「保険金請求(民間の保険会社用)」は別の手続きだということです。どちらも先ほどの「片付け前の写真」が土台になりますので、まずは撮影、そのうえで両方の窓口に並行して連絡するのが効率的です。
同協会は特別相談窓口として、そんぽADRセンター(0334325241、土日祝も対応中)と、家屋の流失・焼失で契約記録を失った方向けの自然災害等損保契約照会センター(0120501331)を案内しています。また災害救助法適用地域では、保険の継続手続きや保険料払込みの2027年1月末日までの猶予も発表されています。
参考: 日本損害保険協会「令和8年熊本地震により被災された皆様へ」
公的支援の柱「被災者生活再建支援金」の金額
り災証明書の被害区分に応じて支給されるのが「被災者生活再建支援金」です。公益財団法人都道府県センター(制度の実施主体)の資料によると、支給額は「基礎支援金」+「加算支援金」の合計で、複数世帯の場合は次のとおりです。
- 全壊・解体・長期避難世帯:基礎支援金100万円+加算支援金(建設・購入200万円/補修100万円/賃借50万円)
- 大規模半壊世帯:基礎支援金50万円+加算支援金(建設・購入200万円/補修100万円/賃借50万円)
- 中規模半壊世帯:基礎支援金なし+加算支援金(建設・購入100万円/補修50万円/賃借25万円)
単身世帯の場合は、これらの金額の75%になります。申請期限は基礎支援金が災害発生日から13か月以内、加算支援金が37か月以内です。り災証明書がないと申請できないため、「まず写真、次にり災証明書申請」という順番を覚えておいてください。
参考: 公益財団法人都道府県センター「支援金支給概要」、内閣府防災「被災者生活再建支援法」
今すぐできる備え ― 「平時の写真」も証拠になる
証拠を残すのは被災後だけではありません。被災前の家の状態を写真で残しておくことも、被害の程度を分かりやすく伝えるうえで役立ちます。
- 各部屋・外壁・屋根を、季節を問わず年に一度は撮影しておく
- 保険証券・契約内容(保険会社名・証券番号・連絡先)をスマホで撮影し、クラウドや家族との共有フォルダにも保存(自宅で紙の証券だけ保管していると、家自体が被災したときに取り出せません)
- 火災保険・地震保険の契約内容(補償額・特約の有無)を一度見直し、地震保険を付けていない場合は保険会社・代理店に相談する
これらは「絶対にこれで安心」というものではなく、あくまで被災後の手続きをスムーズにするための備えです。
気をつけたい落とし穴 ― 便乗詐欺・保険金請求代行トラブル
日本損害保険協会は前述のお知らせの中で、「保険が使える」と勧誘してくる修理業者や、保険金請求代行業者とのトラブルが増加していると注意を呼びかけています。被災後は判断力が落ちている中で契約を急かされやすい時期でもあります。保険金の請求自体は契約者本人が無料でできる手続きです。高額な手数料を求める代行業者や、契約前に契約を急がせる業者には慎重に対応し、迷ったら先述の相談窓口や自治体の消費生活センターに確認してください。
参考: 日本損害保険協会「令和8年熊本地震により被災された皆様へ」
紘一のひとこと:
東日本大震災のとき、私の周りでも「火災保険に入っているから安心」と思い込んでいた人が何人もいました。お金の話は地味で後回しにしがちですが、被災した直後に一番効いてくるのもお金の備えです。そして「片付ける前に写真を撮る」というのは、たった数分でできることなのに、いざそのときになると忘れてしまいがちです。今日、保険証券を確認する。それだけでも、大きな一歩だと思います。
まとめ
- 火災保険だけでは地震・噴火・津波による損害は補償されない。地震保険は火災保険とセットでのみ加入できる
- 地震保険の上限は建物5,000万円・家財1,000万円(火災保険金額の30〜50%の範囲)。付帯率は70.4%まで伸びているが、世帯加入率はまだ35.4%
- 被災したら片付け前に、建物4方向+被害箇所ごとの遠景・近景写真を残す
- 「り災証明書(公的支援用)」と「保険金請求(民間保険用)」は別の手続き。今回の熊本地震では保険金請求にり災証明書は不要とされている
- 被災者生活再建支援金は全壊で基礎100万円+加算最大200万円などり災証明書の区分次第。申請期限は基礎13か月・加算37か月以内
- 「保険が使える」と勧誘する業者・請求代行トラブルに注意
参考・出典:
国土交通省「令和8年熊本地震における被害と対応について」
財務省「地震保険制度の概要」
損害保険料率算出機構 ニュースリリース(2025年8月26日)
国税庁 No.1145「地震保険料控除」
日本損害保険協会「令和8年熊本地震により被災された皆様へ」
ウェザーニュース「熊本地震 片付け前に『り災証明書』申請のための写真撮影を」(2026年7月31日)
空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”「『罹災証明書』の発行で受けられる支援と必要な手続きを解説」
防災エナジー「罹災証明書とは?」
公益財団法人都道府県センター「支援金支給概要」
内閣府防災「被災者生活再建支援法」
最終更新日: 2026年8月10日
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