職場にいるとき・外出中の災害対策|帰宅困難者にならないための完全防災マニュアル

突然の災害は、私たちがいつでもどこでも遭遇する可能性があります。特に、家族の安全を守る立場にある主婦の皆さんにとって、職場や外出先で災害に遭遇した際の対処法を知っておくことは非常に重要です。

東日本大震災では、首都圏で約515万人の帰宅困難者が発生し、多くの人が自宅に帰れない状況となりました。また、千葉県北西部直下地震が発生した場合、最大で約147万人の帰宅困難者が発生すると予測されており、今後も同様の事態が起こる可能性は決して低くありません。

そんな状況に備えて、今回は職場や外出先での災害対策について、具体的で実践的な方法をお伝えします。これを読んで、いざという時に冷静に行動できる準備を整えましょう。

帰宅困難者とは?知っておくべき基本知識

帰宅困難者の定義と現状

帰宅困難者とは、勤務先や外出先等で地震などの自然災害に遭遇し、自宅への帰還が困難になった者を指す用語です。内閣府中央防災会議では、帰宅距離10キロメートル以内は全員「帰宅可能」、10キロメートルを超えると「帰宅困難者」が現れ、20キロメートルまで1キロメートルごとに10%ずつ増加、20キロメートル以上は全員「帰宅困難」としているという基準があります。

これは決して他人事ではありません。通勤距離が長い方、買い物や習い事で遠方に出かけることが多い方は、帰宅困難者になるリスクが高いのです。

一斉帰宅の危険性

災害発生直後に多くの人が一斉に徒歩で帰宅を始めると、沿道の火災や落下物、集団転倒など思わぬ事故に巻き込まれる恐れがあります。中央防災会議の首都直下地震帰宅困難者等対策協議会が策定したガイドラインでは、帰宅困難者の徒歩等による一斉帰宅が起こると応急活動に支障をきたすため、災害時には一斉帰宅抑制対策を行い帰宅しないよう呼びかけることが定められています。

これは「むやみに移動しない」という基本原則として、私たち一人ひとりが理解しておくべき重要なポイントです。

職場での災害対策と防災体制の整備

企業の法的義務と安全配慮義務

職場での災害対策は、企業にとっても重要な責務です。労働契約法に基づく安全配慮義務があり、これは災害時にも適用されるため、企業は従業員の安全を確保する必要があります。

東京都では「東京都帰宅困難者対策条例」により、企業の防災備蓄義務が課されており、従業員が安全に帰宅できない場合に備えて、飲料水や食料品、災害用トイレ、毛布などの備蓄が必要とされています。

職場での防災対策の基本

企業が取り組むべき防災対策として、以下の4つの基本施策があります:

1. 防災マニュアルの作成

災害発生時に社員が迅速かつ効果的に対応できるよう、防災マニュアルを作成する必要があります。このマニュアルには、災害時の組織体制、情報収集・提供方法、救護、初期対応、避難方法などを含めることが重要です。

2. 防災備蓄品の準備

最低でも3日分の飲料水、非常食、応急処置用品、非常用トイレ、衛生用品などの防災備蓄品を準備し、定期的に点検や更新を行うことが必要です。

3. 施設の耐震対策

近年発生している地震では、負傷原因のうち家具類の転倒・転落による負傷が3割~5割を占めています。そのため、オフィス家具の固定や耐震対策が欠かせません。

4. 防災訓練の実施

定期的な防災訓練を実施し、社員の防災意識を高めるとともに、災害発生時の対応を確認し、マニュアルの改善点を見つけることが大切です。

職場で個人ができる備え

職場にいる時間が長い方は、個人的な備えも重要です。デスクや個人ロッカーに以下のものを常備しておきましょう:

– 懐中電灯とラジオ(手回し充電式が便利)

– 非常食(チョコレートやビスケットなど日持ちするもの)

– 飲料水(ペットボトル500ml×2本程度)

– 簡易毛布やタオル

– 運動靴(ヒールの高い靴で避難するのは危険)

– 常備薬

– 現金(小銭も含む)

– 緊急連絡先リスト

外出先での災害対策と行動指針

外出時の基本的な心構え

外出する際は、「0次の備え」として常に最低限の防災グッズを持ち歩くことが重要です。外出時にかばんやポケットに防災グッズを入れて持ち歩くことを「0次の備え」と言います。いつ、どこで被災するか分かりません。常に身に付けておけば、いざというときに役立ちます。

持ち歩くべき防災グッズ

専門家が推奨する外出時の必携アイテムは以下の通りです:

①止血パッド ②ワセリン ③ヘッドライト ④ゴミ袋(黒) ⑤モバイルバッテリー ⑥シート状のソーラーパネル ⑦ゼリー飲料 ⑧おやつ

これらは小さなポーチに入れて常に携帯できるサイズなので、バッグに入れておくことをお勧めします。

外出先での避難行動

外出先で災害に遭遇した場合の基本的な行動原則は以下の通りです:

1. まず身の安全を確保する

建物にいる場合は、机の下に潜る、柱や壁際に身を寄せるなど、落下物から身を守ります。屋外では、看板や建物のガラスなどの落下物に注意し、できるだけ建物から離れた場所に移動します。

2. 情報収集を行う

ラジオやスマートフォンで被災状況や交通機関の運行状況を確認します。デマや不確実な情報に惑わされないよう、公的機関からの情報を重視しましょう。

3. むやみに移動しない

周囲の混乱が落ち着くまで、まずは学校や職場などの安全な場所に留まることを検討しましょう。外出先で地震が起きると、早く帰宅したい、家族の安否を確認したいという気持ちになると思います。気持ちが焦った人たちが発生直後、駅に殺到し将棋倒しになり新たな被害を生むことも考えられます。

地域特性を理解した避難行動

普段よく訪れる場所については、その地域の特性を理解しておくことが重要です。例えば、渋谷では、多くの人が一気に下へ向かってなだれこむことが予想されます。冷静に考えれば、大地震の直後に駅に向かっても電車は動いていないはずです。「群衆なだれ」に巻き込まれないためにも、できるだけ高い方へ避難することが望ましいとされています。

家族との連絡・安否確認方法

事前準備:連絡手段の複数確保

災害時には通信手段が限られるため、複数の連絡方法を事前に家族で話し合っておくことが重要です。

主な連絡手段:

– 災害用伝言ダイヤル(171)

– 災害用伝言板(各携帯電話会社提供)

– SNS(LINE、Twitter等)

– 災害用音声お届けサービス

– 遠方の親戚・知人宅を経由する方法

防災週間期間中のほか、毎月1日と15日、1月1日から3日、防災とボランティア週間(1月15日から21日)も体験利用が可能なので、定期的に家族で練習しておきましょう。

待ち合わせ場所の設定

家族が離れた場所で被災したことを想定して、待ち合わせ場所を「具体的」にすり合わせておくことが重要です。そして、地震直後の避難所は人で溢れかえっているため、「10時・15時・20時の 1日3回」「(避難所となっている)学校の鉄棒の横で」「20分だけ待つ」というように、細かく待ち合わせの条件を決めておくのが良いでしょう。

待ち合わせ場所設定のポイント:

– 第一候補:自宅近くの指定避難所

– 第二候補:職場・学校近くの避難所

– 第三候補:遠方の親戚・知人宅

– 時刻と待ち時間を具体的に決める

– 目印となる建物や設備を明確にする

災害時帰宅支援ステーションの活用

災害時帰宅支援ステーションとは

仙台市では、災害発生時に自宅まで徒歩で帰宅する方々を支援するため、一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会加盟事業者と宮城県、仙台市の三者で、「災害時における帰宅困難者等の支援に関する協定」を締結(平成26年8月)し、災害時帰宅支援ステーションを確保しています。

災害発生時、下のステッカーが貼られている店舗では、水道水やトイレ、道路情報等の提供を受けることができます。

利用できるサービス内容

災害時帰宅支援ステーションでは、以下のサービスを受けることができます:

– 水道水の提供

– トイレの利用

– 道路情報の提供

– 一時的な休憩場所の提供

– ラジオ等による情報収集支援

全国的に同様の協定が結ばれているコンビニエンスストアやファーストフード店が多いので、普段から利用する店舗で災害時帰宅支援ステーションのステッカーがあるかどうか確認しておくとよいでしょう。

一時滞在施設の利用方法

一時滞在施設とは

公共交通機関の運行再開の目途が立たない時は、開設されている一時滞在場所へ移動しましょう。帰宅困難者の一斉帰宅を抑制するため、帰宅が可能となるまで職場などで待機することができない帰宅困難者を受け入れる施設です。概ね3日間程度の受入れができ、飲料水や情報などを提供します。

利用時の注意点

災害発生時に順次開設されますが、開設までには時間がかかります。また、建物の被害状況によっては開設できない場合があります。とりあえず一時滞在場所へ向かうのではなく、市や仙台駅等が公開する情報(開設状況等)を確認のうえご利用ください。

一時滞在施設を利用する際のポイント:

– 事前に自分の生活圏内の一時滞在施設を調べておく

– 開設情報は市区町村の公式情報を確認する

– 直接施設に問い合わせるのではなく、公式発表を待つ

– 必要最低限の荷物で利用する

– 施設のルールに従って行動する

徒歩帰宅時の安全対策

徒歩帰宅の判断基準

すべての人が職場や外出先で待機し続けることはできません。安全が確認され、徒歩での帰宅が可能と判断される場合の基準を理解しておきましょう。

徒歩帰宅可能の判断基準:

– 自宅までの距離が20km以内

– 道路の安全が確認されている

– 天候が安定している

– 明るい時間帯である

– 体力的に歩行可能である

徒歩帰宅時の装備と注意点

避難する時は原則として徒歩で避難しましょう。車を使うと渋滞を引き起こし、消防・救急活動などに支障を来します。普段歩いている道も混乱して、歩きにくくなっている恐れがあります。携帯品は歩きやすいよう背負える範囲のものにとどめ、服装は活動しやすいものにしましょう。

徒歩帰宅時の服装・装備:

– 歩きやすい靴(運動靴が理想)

– 動きやすい服装

– リュックサック(両手が使えるように)

– 懐中電灯

– 地図(紙の地図も重要)

– 飲料水と非常食

– タオルと軍手

– 現金

帰宅ルートの事前確認

普段の通勤・通学ルートが災害時に安全とは限りません。以下の点を考慮して複数のルートを事前に確認しておきましょう:

– 橋や高架道路の耐震性

– 火災の危険性が高い地域

– 液状化の可能性がある地域

– 土砂災害の危険区域

– 一時休憩できる場所(公園や学校など)

ハザードマップを活用して、危険箇所を確認しておきましょう。

業種別・状況別の対処法

オフィスワーカーの場合

オフィスで働く方は、以下の点に特に注意しましょう:

地震発生時の初期対応:

– 机の下に潜り、頭部を保護する

– 揺れが収まったら、火の始末と出口の確保

– エレベーターは使わず、階段で避難

– 上司や同僚と安否確認

長期滞在への備え:

– デスクに防災用品を常備

– 会社の防災マニュアルを理解

– 避難経路を複数把握

– 同僚との連携体制を構築

外回り営業の場合

外回りが多い営業職の方は、以下の対策が重要です:

移動中の対策:

– 常に防災グッズを携帯

– 訪問先の避難場所を事前確認

– 会社や家族との連絡手段を複数確保

– 地域の災害リスクを理解

車両利用時の注意:

– 緊急時以外は車での移動を控える

– 渋滞に巻き込まれた場合の対処法を知る

– 車内にも防災用品を常備

– 燃料は常に十分確保

パート・アルバイトの場合

パートやアルバイトで働く方も、正社員と同様の防災対策が必要です:

職場での立場を理解:

– 勤務先の防災体制を確認

– 避難時の集合場所を把握

– 責任者との連絡方法を確認

– 帰宅判断の権限者を明確にする

家族への配慮:

– 子どもの迎えが必要な場合の優先順位

– 高齢者の安否確認方法

– 家事の代替手段の準備

特殊な状況での対処法

大型商業施設にいる場合

ショッピングモールやデパートなどの大型商業施設では、以下の点に注意:

施設内での行動:

– 館内放送に従って行動

– エスカレーターやエレベーターから離れる

– 広いスペース(中央通路など)に移動

– 出口を複数確認しておく

– 駐車場の車への戻り方を把握

群衆心理への対応:

– パニックに陥った群衆に巻き込まれないよう注意

– 冷静に状況を判断

– 無理に出口に向かわず、安全な場所で待機

– 小さな子どもがいる場合は特に慎重に行動

公共交通機関利用中の場合

電車やバスに乗車中に災害に遭った場合:

電車の場合:

– つり革や手すりにしっかりつかまる

– 乗務員の指示に従う

– 勝手にドアを開けたり車外に出たりしない

– 停電時でも慌てずに待機

– 駅間で停止した場合は乗務員の誘導を待つ

バスの場合:

– 座席の背もたれを掴んで身体を支える

– 運転手の指示に従う

– 窓ガラスの破損に注意

– 避難時は前後のドアから順序よく

地下街・地下鉄にいる場合

地下空間での災害は特に危険なため、冷静な判断が重要です:

基本的な行動:

– 停電に備えて懐中電灯を準備

– 係員の指示に絶対に従う

– 勝手な行動は厳禁

– 煙が発生した場合は低い姿勢で移動

– 複数の出口を把握しておく

災害時の情報収集と判断基準

信頼できる情報源

災害時には様々な情報が飛び交いますが、以下の公的機関からの情報を最優先にしましょう:

国レベルの情報源:

– 気象庁(気象警報・地震情報)

– 内閣府防災情報(災害対策本部情報)

– 消防庁(避難指示等)

– 国土交通省(交通情報)

地方レベルの情報源:

– 都道府県庁(災害対策本部情報)

– 市区町村(避難所情報、給水情報等)

– 警察・消防(交通規制、救助情報)

情報の判断基準

気象庁から警戒レベル1「早期注意情報」が出た場合には最新の防災気象情報などを確認するなど、災害への⼼構えを⾼めてください。

災害情報の5段階警戒レベルを理解しておきましょう:

警戒レベル1:早期注意情報

警戒レベル2:注意報(ハザードマップで避難行動確認)

警戒レベル3:高齢者等避難

警戒レベル4:避難指示(全員避難)

警戒レベル5:緊急安全確保(命の危険)

警戒レベル5を待つことなく、警戒レベル4までに避難することが必要です。

心理的ケアと精神的な備え

災害時の心理状態を理解する

災害に遭遇すると、誰でも以下のような心理状態になることがあります:

正常性バイアス:

「自分は大丈夫」と思い込み、危険を過小評価してしまう心理

パニック状態:

冷静な判断ができなくなり、適切な行動がとれなくなる

依存心理:

誰かに助けてもらおうと考え、自分で行動することを放棄してしまう

冷静さを保つための方法

事前の心構え:

– 災害は必ず起こるものと認識する

– 家族との約束事を決めておく

– 定期的に防災知識を復習する

– 避難訓練に参加する

災害発生時の対応:

– 深呼吸をして気持ちを落ち着ける

– 周囲の状況を冷静に観察する

– 一つずつ確実に行動する

– 他人を助けることで自分も落ち着く

家族への配慮

主婦として家族の安全を守る立場にある方は、以下の点を考慮してください:

子どもへの対応:

– 事前に災害について年齢に応じた説明をしておく

– 学校や保育園の災害時対応を把握する

– 迎えに行けない場合の対処法を子どもに教える

高齢者への対応:

– 避難時の支援方法を近所の人と相談しておく

– 常備薬の管理と災害時の対処法を確認

– 緊急連絡先を複数の場所に保管

まとめ:日頃からの備えが命を守る

災害は予告なしにやってきます。職場や外出先で災害に遭遇した際、適切に行動できるかどうかは、日頃の備えと知識にかかっています。

今すぐできる行動:

1. 職場や普段よく行く場所の避難場所を確認する

2. 家族との連絡方法と待ち合わせ場所を決める

3. 外出時用の防災グッズを用意する

4. 帰宅ルートを複数確認し、実際に歩いてみる

5. 災害時帰宅支援ステーションの場所を調べる

継続的に行うべきこと:

1. 防災グッズの点検と更新

2. 家族での災害対応の話し合い

3. 最新の防災情報の収集

4. 地域の防災訓練への参加

5. 職場の防災体制の確認

災害による被害をできるだけ少なくするためには、一人ひとりが自ら取り組む「自助」、地域や身近にいる人同士が助け合って取り組む「共助」、国や地方公共団体などが取り組む「公助」が重要だと言われています。その中でも基本となるのは「自助」、自らの命は自らが守る意識を持ち、一人ひとりが自分の身の安全を守ることです。

家族の安全を守るために、まずは自分自身が安全でいることが最も重要です。この記事で紹介した知識と対策を参考に、日頃から災害に備える習慣を身につけていきましょう。

災害対策は一朝一夕にはできません。しかし、少しずつでも準備を進めることで、いざという時に家族を守ることができます。今日から、できることから始めてみてください。あなたの備えが、きっと家族の命を守る力になるはずです。