
はじめに:住宅火災の現実を知ることから始めよう
こんにちは。災害基本対策マニュアル.comの編集部です。「まさか自分の家が火災になることはないだろう」そう思っている方も多いのではないでしょうか?
しかし、現実は私たちの想像以上に深刻です。総出火件数の3万8672件を出火原因別にみると、「たばこ」3498件(9.0%)、「たき火」3473件(9.0%)、「こんろ」2838件(7.3%)、「放火」2495件(6.5%)の順で、「放火の疑い」も1616件(4.2%)に上るのが現状です。
住宅火災では毎年約1,000人が死亡し、その理由の多くが逃げ遅れであり、犠牲者の7割が65歳以上の高齢者となっています。これは決して他人事ではありません。
特に主婦の皆さんにとって、家族全員の安全を守ることは重要な責任です。そこで今回は、住宅火災から大切な家族を守るための対策について、具体的で実践的な方法をご紹介していきます。
住宅火災の実態と危険性
住宅火災の発生状況
建物火災の出火件数を火元建物の用途別にみると、住宅火災が1万784件と最も多く、全体の51.3%を占めているという統計があります。つまり、建物火災の半数以上が住宅で発生しているのです。
12月から翌年3月までは火災が多発する時期ですとされており、乾燥する冬季は特に注意が必要です。暖房器具の使用頻度が高まることも、火災リスクを押し上げる要因となっています。
火災による死亡者の特徴
住宅火災による死者数(放火自殺者等を除く。)のうち65歳以上の高齢者の死者数は762人で、全体の74.5%を占めています。高齢者の逃げ遅れが深刻な問題となっていることが分かります。
また、死者の発生状況を時間帯別にみると、火災件数は起きている時間帯が多い一方で、火災死者数は就寝時間帯の方が多くなっていますという特徴があります。就寝時間帯は火災の発見が遅れやすく、結果的に逃げ遅れのリスクが高まります。
火災対策の基本:住宅用火災警報器の重要性
住宅用火災警報器の設置義務
2004年に消防法の改正がおこなわれ、戸建てを含めたすべての住宅において住宅用火災警報器(火災報知器)を設置することが義務となりました。これは火災による死者数を減らすための重要な施策です。
住宅用火災警報器は、寝室と、寝室がある階の階段上部に取り付けることが義務付けられています。平屋の場合は寝室のみで十分ですが、2階建て以上の住宅では階段への設置も必要です。
住宅用火災警報器の効果
住宅用火災警報器が設置されていた場合とそうでなかった場合の火災を比較すると、住宅用火災警報器によって死亡者数がおよそ3分の1にまで抑えられることが分かっています。また、消防庁にて令和元年から3年間にかけて行った被害状況の分析では、住宅用火災報知器が設置されている場合、死者数と損害額が半減、延焼床面積が約6割減となったという顕著な効果が確認されています。
住宅用火災警報器の種類と選び方
住宅用火災警報器には、主に以下の種類があります:
煙式(光電式)
– 寝室・階段室・台所などに設置し、煙が住宅用火災警報器に入ると音や音声で火災の発生を知らせます
– 消防法令で寝室や階段室に設置が義務付けられているのはこのタイプです
熱式(定温式)
– 台所・車庫などに設置し、住宅用火災警報器の周辺温度が一定の温度に達すると音や音声で火災の発生を知らせます
– 大量の煙や湯気が対流する場所に適しています
設置場所の詳細
住宅用火災警報器を設置する部屋は、各市町村の火災予防条例で定められた場所に取り付ける必要があります。ただし全国共通で、寝室および寝室がある階(寝室が避難階となる階にある場合は除く)の階段には、原則として煙式を設置しなくてはなりません。
具体的な設置場所:
1. 寝室:すべての寝室が対象(子ども部屋なども含む)
2. 階段:寝室がある階の階段(避難階を除く)
3. 台所:市町村によって義務付けられている場合がある
初期消火の方法とコツ
初期消火の基本原則
火災が発生した際、最初の3分間が勝負と言われています。この間に適切な初期消火を行うことができれば、大きな被害を防ぐことが可能です。
消火器の種類と特徴
家庭用消火器には主に以下のタイプがあります:
粉末タイプ
消火力の高さを求める人には、スピーディーな消火が見込める粉末タイプがおすすめです。広範囲に粉末を噴出することで、火に酸素が供給されるのを防ぎます。ABC火災すべてに対応する汎用性の高さが魅力です。
強化液タイプ
再燃予防に効果的で、木材や布類などの浸透性が高いという特徴があります。
スプレータイプ
軽量で使いやすく、女性やお年寄りでも取り扱いが簡単です。
消火器の正しい使い方
消火器の使い方 1.消火器を障害物にぶつけたりしないよう注意しながら、火災の起きている場所近くの消火に安全な場所まで運びます。概ね7~8m手前を目安とします。
具体的な使用手順:
1. 安全ピンを引き抜く:黄色の安全ピンを抜きます
2. ホースを外す:ホースの先端を持って火元に向けます
3. レバーを握る:強く握って放射します
4. 的確に放射:火の根元に向かって左右に振りながら放射します
初期消火の判断基準
初期消火を試みるかどうかは、以下の条件で判断してください:
– 炎の高さが天井に達していない
– 煙の量がそれほど多くない
– 逃げ道が確保されている
– 消火器などの消火用具がすぐに使える
これらの条件が一つでも満たされない場合は、初期消火を諦めて直ちに避難することが重要です。
火災の種類別対処法
コンロ火災
– ガスの元栓を閉める
– 濡れたタオルなどで鍋に蓋をするように覆う
– 消火器を使用する場合は、油に直接噴射しない
電気火災
電気火災は、電気設備機器などに起因する火災のことをします。東京消防庁ではリチウムイオン電池を使ったモバイルバッテリーからの出火も電気火災と扱っており身近な火災の一つです。
電気火災の場合:
1. まずブレーカーを切る
2. 電源プラグを抜く
3. 水は絶対にかけない
4. 消火器(粉末またはガス系)を使用
煙対策と避難方法
煙の危険性
火災の煙には有毒な一酸化炭素が含まれています。吸い込むと意識障害を起こし、呼吸ができず死亡する可能性があり大変危険です。火災で命を落とす原因として、炎よりも煙による一酸化炭素中毒の方が深刻な問題となっています。
煙の特性を理解する
煙の上昇速度は毎秒3m~5mにもなります。階段で人が上の階に上がる速さは元気な人で、約毎秒0.5mと言われています。つまり、煙の方が人の避難速度より6倍以上速いということです。
煙は天井から溜まっていく性質を持つため、低い姿勢で床近くの空気を吸いながら這うように逃げます。この特性を理解しておくことが重要です。
正しい避難方法
基本の避難姿勢
1. 姿勢を低くする:床から30cm程度の高さを保つ
2. 口と鼻を覆う:口と鼻をタオルやハンカチで覆いましょう
3. 壁を頼りに進む:方向感覚を失わないよう壁に手をつけて移動
4. 扉の確認:扉が熱くなっていないか手の甲で確認してから開ける
避難時の注意点
– エレベーターは絶対に使用しない
– 煙が充満している場合は無理に避難しない
– 窓から脱出する際は、まず窓を少し開けて外の状況を確認
– 2階からの脱出時は、布団などを下に投げて衝撃を和らげる
避難経路の事前確認
普段から家族全員で以下の確認をしておきましょう:
1. 主要避難経路:通常使用する避難ルート
2. 予備避難経路:主要ルートが使えない場合の代替ルート
3. 集合場所:避難後に家族が集まる場所
4. 連絡方法:家族との連絡手段
住宅火災の避難計画作成
家族避難計画の重要性
火災は突然発生するため、事前に避難計画を立てておくことが極めて重要です。特に小さなお子さんやご高齢の方がいる家庭では、より詳細な計画が必要になります。
避難計画作成の7つのステップ
ステップ1:家の間取りを確認
– 各部屋からの避難経路を2つ以上確保
– 階段、廊下、窓の位置を正確に把握
– 避難の障害となる物を事前に除去
ステップ2:火災警報器の設置場所確認
– 設置義務のある場所への設置状況確認
– 電池交換時期のチェック
– 動作確認の実施
ステップ3:消火器具の配置
– 各階に最低1台の消火器を配置
– 消火器の使用期限確認
– 消火毛布やバケツなどの補助具も準備
ステップ4:避難経路の設定
– 1階:玄関、勝手口、大きな窓
– 2階以上:階段、避難はしご、ベランダ
– 各経路に照明を確保
ステップ5:家族の役割分担
– 火災発見者の役割(通報、初期消火、避難誘導)
– 子供や高齢者の誘導担当者
– 貴重品や必需品の持ち出し担当者
ステップ6:集合場所の決定
– 家から十分離れた安全な場所
– 全員が知っている分かりやすい場所
– 消防車の活動を妨げない場所
ステップ7:定期的な訓練
– 月1回の避難訓練実施
– 訓練後の反省と改善
– 季節や家族構成の変化に応じた計画見直し
特別な配慮が必要な家族への対策
小さなお子さんがいる場合
– 子供部屋からの避難経路を複数確保
– 子供でも操作できる簡単な避難用具を準備
– 「お・か・し・も」の避難ルールを教える(押さない、駆けない、喋らない、戻らない)
高齢者がいる場合
– 移動に時間がかかることを考慮した計画
– 車椅子や歩行器での避難経路確認
– 介助方法の習得と練習
ペットがいる場合
– ペット用キャリーの準備と設置場所確認
– ペットフードや薬などの非常用品準備
– ペット同伴可能な避難場所の事前確認
住宅火災の予防対策
出火原因別の予防策
コンロ関連の火災予防
建物火災では、こんろの消し忘れ、たばこの不始末、放火によるものが多くなっていることから、コンロの管理は特に重要です。
– 調理中はコンロから離れない
– タイマーを活用した時間管理
– コンロ周りに燃えやすいものを置かない
– 定期的なガス器具の点検
たばこ関連の火災予防
たばこによる死者数が最も多く、次いでストーブ、電気器具となっていますという統計があります。
– 吸い殻は水で完全に消火
– 寝タバコは絶対に禁止
– 灰皿は定期的に清掃
– 吸い殻をゴミ箱に直接捨てない
電気器具の火災予防
– たこ足配線を避ける
– コードの劣化チェック
– 使わない電気器具はコンセントから抜く
– ホコリの清掃を定期的に実施
住宅の防火性能向上
防火設備の設置
– 防火カーテンの使用
– 防火扉の設置検討
– 防火性の高い内装材の選択
定期メンテナンス
– 電気設備の点検(年1回以上)
– ガス設備の点検(年1回以上)
– 煙突や換気設備の清掃
火災発生時の初期対応
火災発見時の行動順序
1. 大声で知らせる
火災に気づいたら、「火事だー︕」と大声をあげたり、鍋を硬い物でたたき大きな音を出して周囲に知らせます。
2. 119番通報
– 落ち着いて正確な住所を伝える
– 火災の状況を簡潔に説明
– けが人の有無を報告
3. 初期消火の判断
– 火の大きさと煙の量を確認
– 逃げ道の確保状況をチェック
– 消火器具の有無を確認
4. 避難準備
– 家族の安全確認
– 必要最小限の持ち物準備
– 避難経路の安全確認
通報時のポイント
119番通報では以下の情報を正確に伝えましょう:
1. 住所:正確な住所(目印となる建物も併せて)
2. 火災の場所:家のどの部分から出火しているか
3. 火の勢い:炎の高さや煙の色・量
4. 逃げ遅れ:家の中に人がいるかどうか
5. 通報者の氏名:自分の名前と連絡先
やってはいけない行動
– 水による電気火災の消火:感電の危険があります
– 油火災への直接放水:火が広がる可能性があります
– エレベーターの使用:停電で閉じ込められる危険があります
– 煙の中での無理な避難:一酸化炭素中毒の危険があります
まとめ:日頃の備えが家族を守る
住宅火災は私たちの生活に最も身近な災害の一つです。総務省消防庁は、設置しない場合に比べて焼損面積や損害額はおおむね半減、死者も3分の2に抑えられていると分析していますように、適切な対策を講じることで被害を大幅に軽減することができます。
今日からできる火災対策
1. 住宅用火災警報器の設置確認
– 設置場所の再確認
– 電池交換時期のチェック
– 動作確認の実施
2. 避難計画の作成と訓練
– 家族全員での避難経路確認
– 月1回の避難訓練実施
– 集合場所の決定
3. 消火器具の準備
– 各階への消火器配置
– 使用方法の習得
– 定期的な点検
4. 火災予防の徹底
– コンロや電気器具の適切な使用
– 定期的な清掃と点検
– 火の元確認の習慣化
家族を守るための心構え
火災対策は一度行えば終わりではありません。季節の変化、家族構成の変化、住環境の変化に応じて、定期的に見直しを行うことが大切です。
特に主婦の皆さんは、家族の安全を守る中心的な役割を担っています。日頃からの準備と意識が、いざという時に家族の命を救うことにつながります。
「備えあれば憂いなし」という言葉の通り、今から始められる対策を一つずつ実行していきましょう。小さな準備の積み重ねが、家族の大切な命と財産を守る大きな力となるのです。
最後に
住宅火災対策は決して難しいものではありません。正しい知識を身につけ、適切な準備を行い、定期的な訓練を実施することで、誰でも効果的な火災対策を講じることができます。
この記事が、皆さんの住宅火災対策の参考になれば幸いです。家族の安全は何よりも大切な財産です。今日から始められることを一つずつ実行し、安心して暮らせる住まいづくりを進めていきましょう。
災害基本対策マニュアル.comでは、今後も皆さんの暮らしを守るための有益な情報を発信してまいります。火災対策に関してご質問やお困りのことがございましたら、お気軽にお問い合わせください。