
マンション防災の基本:なぜ集合住宅の災害対策が重要なのか
近年、地震や台風、豪雨などの自然災害が頻発する中、マンションに住む私たちにとって防災対策は避けては通れない重要なテーマです。特に集合住宅では、一戸建てとは異なる特有の課題があるため、それに合わせた防災対策を立てることが必要になります。
災害時に想定されるエレベーターやトイレの利用停止など、マンション特有の課題に対する備えを学ぶための知識が求められ、各世帯の取り組みによって、マンション全体の被害を軽減することもできます。
マンション防災の基本として、まず理解しておきたいのは、マンションは堅牢で地震などの自然災害に強くできていますが、災害時にはマンション特有の問題が発生することがありますということです。建物自体は地震に強くても、生活に必要な設備やライフラインが停止することで、日常生活に大きな影響を与える可能性があります。
マンション防災の現状と課題
避難所は市町村が行う自治事務ですが、全ての住民が収容できるわけではありません。例えば、2023年1月時点の東京都の避難所数は約3200カ所。収容人数は、約320万人です。東京都の人口は1400万人以上のため、総人口の23%ほどが収容できる分しか確保されていません。
この現実を踏まえると、マンションは災害に強い建物であることから、大規模な災害が発生した場合、避難所の受け入れは倒壊の恐れがある一戸建てやアパートの住人が優先され、マンションの住人は基本的に在宅避難を求められます。
高層階避難:エレベーター停止時の対応策
エレベーターが使えない時の避難方法
災害時、マンションでの生活に大きく影響するのが、「エレベーターの停止」です。災害時にエレベーターが使えず、生活に大きな影響するのは、何もタワーマンションや高層階に限ったことではありません。
高層階にお住まいの場合、避難時の大きな課題となるのがエレベーターの停止です。高層マンションやビルの火災で高齢者や障害者らが逃げ遅れるのを防ぐため、東京消防庁は、従来の階段を使った避難方法を変更し、10月から非常用エレベーターを活用するよう指導する動きも出ていますが、多くのマンションでは階段での避難が基本となります。
エレベーター停止時の対策
エレベーターの停止時間は、震源地やマンションの建物構造、エレベーターの保守状況によって異なります。一般的には震度や揺れの強さに応じて一時停止する時間が設定されており、大地震でなければ基本的には数分から数時間以内に復旧することが多いようです。
ただし、大阪北部地震(2018年6月)では、近畿2府3県を中心に63,000台が停止し、大阪府では55.8%、京都府や奈良県でも半数近くのエレベーターが運転を停止する事態に陥りましたという現実もあります。
高層階の住民は、以下の点を特に意識して準備することが重要です:
1. 階段での避難に備えた体力づくり
2. 非常用の靴の準備(スニーカーなど歩きやすい靴)
3. 避難経路の確認(普段から階段を使う習慣づけ)
4. 上階への避難も視野に入れた準備
在宅避難の準備:マンションだからこそ必要な備え
在宅避難が推奨される理由
マンションは戸建てよりも地震・水害に対して強固である場合が多いため、建物が無事であれば無理に避難所へ行く必要が無いケースが多くみられます。そのため、ライフライン停止に備えた防災備蓄品を確保することで、自宅に留まる「在宅避難」を送ることが可能となります。
在宅避難のメリット
在宅避難には以下のようなメリットがあります:
1. プライバシーの確保:家族だけの空間を保てる
2. ペットと一緒に避難可能:避難所では制限がある場合が多い
3. 慣れた環境での避難生活:ストレスを軽減できる
4. 必要な物資の確保:事前に準備した物資を十分に活用できる
在宅避難の準備で重要なポイント
災害時に自宅へ留まる「在宅避難」においてまず重要な準備は、ライフライン停止への対応です。電気・ガス・水道・ゴミ回収などの停止に備えて、これらを代替するための防災用品や備蓄品を用意する必要があります。
特にマンションでは非常用トイレの準備が最重要です。階段で地上へ降りるのが厳しい高さにお住まいの場合は、「1名×5回×7日~14日」分のトイレを最低限確保しておくことが望ましいです。
防災グッズの選び方:マンション向け必需品リスト
基本的な防災グッズの考え方
防災グッズとは、家具の固定器具やヘルメット、消火器などといった「災害を防ぐ」ための備品や、リュックタイプの防災袋の中に入れる水や救急用品などの「被災後の生活を安全に、そしてできるだけ快適に過ごす」ための備品のことです。
防災グッズは大きく分けて以下の3種類に分類されます:
1. 0次の備え:常に携帯するもの
2. 1次の備え:避難時に持ち出すもの
3. 2次の備え:在宅避難用の備蓄品
マンション専用防災グッズリスト
#### 水・食料関連
水は人間が生きるための必需品です。1日に必要な飲料水の量の目安は成人で約3リットルであるため、自宅には1人あたり「3リットル×3日分」の飲料水(保存水)をストックしておきましょう。
ただし、大規模震災後は、1週間以上、ライフラインが使えなくなるシナリオも想定されていますため、できれば1週間分の備蓄を目指しましょう。
#### 非常用トイレ・衛生用品
マンション防災で最も重要なのが非常用トイレです。1名×5回×7日~14日分のトイレを最低限確保しておくことが望ましいです。
以下の衛生用品も必要です:
– ウェットティッシュ
– 除菌用アルコール
– 生理用品
– 紙おむつ(必要に応じて)
– 歯ブラシ・歯磨き粉
#### 照明・電源関連
停電時の備えとして以下が必要です:
– 懐中電灯・ヘッドライト
– ランタン
– 電池(各種サイズ)
– モバイルバッテリー
– 手回し発電機
#### 暖房・冷房対策
年々厳しくなる暑さの中、もし停電してクーラーや扇風機が使えなくなったら…?在宅避難でもそのしんどさは容易に想像できますが、避難所となる体育館などは、さらに熱がこもりやすい環境です。
– 使い捨てカイロ
– 毛布・寝袋
– 冷却シート
– うちわ・扇子
防災グッズの収納方法
防災グッズは、備蓄用と持ち出し用それぞれが最適な場所にないと非常時にすぐ取り出せません。効率的な収納方法として以下を心がけましょう:
#### 分散収納の重要性
防災グッズは使用する場所やその近くに収納し、水や食料は各部屋に分散させて備蓄することが重要です。
具体的な収納場所:
– 玄関周辺:持ち出し用防災袋
– 寝室:懐中電灯、スマートフォン充電器
– キッチン:水、非常食
– 各部屋:非常用トイレ、ウェットティッシュ
– ベランダ:カセットコンロ、燃料
#### 収納管理のコツ
防災グッズは日常的に使わないものも含まれており、分散して収納することから、何がどこに収納されているか忘れてしまいがち。そのため、収納位置を示す「マップ」をつくっておくのもおすすめです。
災害時の対応手順:マンション特有の行動指針
地震発生時の対応
#### 初動対応
1. 身の安全確保:テーブルの下に隠れる、落下物から身を守る
2. 火の始末:ガスの元栓を閉める、電気のブレーカーを切る
3. 出口の確保:ドアを開けて避難経路を確保
#### 揺れが収まった後の対応
1. 家族の安否確認
2. 怪我人の応急処置
3. 建物の安全確認
4. 近隣住民との情報共有
火災発生時の対応
マンション火災は、建物の階数が高くなればなるほど鎮火が難しく被害が大きくなってしまう恐れがあります。
#### 避難の基本原則
火災や地震の際には高層建築物のエレベーターは自動的に避難階や最寄り階に停止し、避難には利用することができない。タワーマンションの高層階であっても避難には階段を利用することが大原則なのだ。
#### 避難時の注意点
1. 煙を避ける:姿勢を低くして避難
2. 階段を使用:エレベーターは使用禁止
3. 避難経路の確認:複数の経路を把握しておく
4. 避難後の集合場所:事前に決めておく
水害発生時の対応
マンションでの水害対策は階数によって異なります:
#### 低層階の対応
1. 浸水に備えた準備:土嚢、止水板の設置
2. 電気設備の保護:コンセントの高さ確認
3. 上階への避難準備
#### 高層階の対応
1. エレベーター停止への備え
2. 断水対策:水の確保
3. 停電対策:照明・通信手段の確保
マンション管理組合との連携
防災委員会の設置
大勢の世帯が集まって暮らしていることは防災の面で有利に働きます。個々の住人が少しずつ費用を負担することで建物の防災機能を高め、災害発生に備えた体制を作っておくことでいざという時に助け合うことができます。
共同備蓄の重要性
マンション全体での備蓄を進めることで、以下のメリットがあります:
1. コスト削減:大量購入によるコストメリット
2. 保管効率:共用部分での効率的な保管
3. 情報共有:住民同士の防災意識の向上
4. 協力体制:災害時の相互支援
定期的な防災訓練
年に1~2回程度の防災訓練を実施し、以下の項目を確認しましょう:
– 避難経路の確認
– 備蓄品の点検
– 緊急時の連絡体制
– 応急処置の方法
日常的な防災対策
ローリングストック法の活用
飲料水・食料・日用品についても、発災から3日分程度はいわゆる「非常食」や「防災グッズ」が役立ちますが、1~2週間分の備蓄をする場合、全てを防災専用に準備するとお金と手間がかかります。普段食べたり使用したりしているものを少し多めに持つ「日常備蓄」で準備するとよいでしょう。
#### ローリングストック法の手順
1. 多めに購入:普段使う食品や日用品を多めに購入
2. 古いものから消費:賞味期限の古いものから使用
3. 使った分を補充:消費した分を新しく購入
4. 定期的な見直し:3ヶ月に1度は全体をチェック
家具の固定と安全対策
マンションは高層階ほど揺れが大きくなります。そのため、居住階をふまえて対策を考えましょう。
#### 家具固定の重要性
高層階では揺れが大きくなるため、家具の固定は必須です:
– 冷蔵庫:専用の固定金具で壁に固定
– 食器棚:天井と突っ張り棒で固定
– テレビ:転倒防止ベルトで固定
– 本棚:L字金具で壁に固定
#### 窓ガラスの飛散防止
ガラス飛散防止フィルムの貼り方とは?必要な理由と正しい手順について解説することで、地震時の怪我を防げます。
情報収集と通信手段の確保
災害時の情報収集手段を複数確保しておきましょう:
1. ラジオ:電池式、手回し式の両方を準備
2. スマートフォン:充電器、モバイルバッテリー
3. テレビ:ワンセグ対応の小型テレビ
4. インターネット:Wi-Fiルーターの予備バッテリー
まとめ:家族を守るマンション防災の実践
マンション防災は、一戸建てとは異なる特有の課題があることを理解し、それに適した対策を講じることが重要です。特に高層階にお住まいの場合は、エレベーター停止を前提とした準備が必要になります。
今日から始められる防災対策
1. 防災用品の点検:現在の備蓄状況を確認
2. 家族防災会議:避難計画と連絡方法を話し合う
3. 近隣住民との交流:いざという時の協力体制づくり
4. 定期的な見直し:備蓄品の賞味期限と必要性の確認
継続的な防災意識の向上
日頃の備えが何よりも大切です。防災対策は一度準備して終わりではなく、継続的に見直しと改善を続けることが重要です。
家族の安全を守るためには、正しい知識と適切な準備、そして日頃からの防災意識が欠かせません。マンションという住環境の特性を活かし、在宅避難を基本とした防災対策を進めていきましょう。住民同士の協力と連携により、災害に強いマンションコミュニティを築いていくことが、私たち一人ひとりができる最も効果的な防災対策なのです。
定期的に防災用品の点検を行い、家族全員で防災について話し合う時間を持つことで、いざという時に慌てることなく適切な行動が取れるようになります。マンション防災は決して難しいものではありません。今日から始められる小さな一歩から、家族の安全を守る大きな備えへと発展させていきましょう。