「フェーン現象で今日は真夏並みの暑さ」――夏から秋にかけて、天気予報でこの言葉を耳にする機会が増えます。単なる「暑い日」の説明のように聞こえますが、フェーン現象は記録的な高温や、時には大規模な火災の引き金にもなる、決して軽く見てはいけない気象現象です。
私自身、東日本大震災を経験してから、天気にまつわる言葉を「なんとなく」聞き流すのをやめました。今回は、フェーン現象がどんな仕組みで起こり、発生するとどんなことが起きるのかを、気象庁など公式情報をもとに整理してお伝えします。

フェーン現象とは何か
フェーン現象とは、湿った空気が山を越えて風下側に吹き下りるときに、高温で乾燥した風になる現象のことです。山の風上側では雨や雪を降らせて水分を失った空気が、風下側では乾いた空気として吹き下ろすため、山を越える前よりも気温が上がり、湿度が下がります。
もともとはヨーロッパのアルプス山脈で吹く局地風「フェーン(Föhn)」に由来する呼び名ですが、山地の多い日本では全国各地で頻繁に発生する、身近な気象現象です。
なぜ山を越えると気温が上がるのか―仕組みをやさしく解説
ポイントは、「湿った空気」と「乾いた空気」で、上昇・下降したときの温度変化の割合(断熱減率)が違うことです。
- 湿った空気が上昇するとき:雲や雨をつくりながら、およそ100mにつき0.5〜0.6℃の割合で気温が下がる(湿潤断熱減率)
- 乾いた空気が下降するとき:およそ100mにつき約1℃の割合で気温が上がる(乾燥断熱減率)
つまり、山を上るときはゆっくり冷え、山を下りるときは速く暖まるため、同じ高さを行き来しても、風下側の気温は風上側より高くなるのです。標高2,000m級の山を一つ越えるだけでも、計算上10℃以上気温が変わることがあります。
実は2種類ある「熱力学的フェーン」と「力学的フェーン」
フェーン現象と一口に言っても、実は仕組みが異なる2タイプがあることが分かってきています。
①熱力学的フェーン(ウェットフェーン):上で説明した通り、風上側で雨や雪を降らせ、水分を失った空気が下降して高温になるタイプ。北陸地方など日本海側で発生しやすいとされます。
②力学的フェーン(ドライフェーン):風上側で目立った雨を伴わず、山を越えた気流が下降するだけで気圧が上がり(断熱圧縮)、気温が上昇するタイプ。日本海側だけでなく太平洋側でも起こるのが特徴です。筑波大学の研究(2021年)では、富山平野で発生したフェーン現象の8割が、この力学的なメカニズムによるものだったと報告されています。
参考: 日本気象協会 tenki.jp「フェーン現象は2種類」
起きやすい地域と季節
フェーン現象は、日本海側に低気圧が進み、山を越えて南寄りや西寄りの強い風が吹き込むときに発生しやすくなります。季節としては春から秋にかけて目立ちますが、冬場でも低気圧の発達次第で起こることがあります。中部山岳や奥羽山脈、脊梁山脈など、日本列島は南北に山地が連なっているため、日本海側・太平洋側を問わず、全国どこでも起こりうる現象だと考えておく必要があります。
記録的な高温をもたらした実例
フェーン現象は、時に統計上の記録を塗り替えるほどの高温をもたらします。
2004年7月20日、東京都心(大手町)で午後0時58分に39.5℃を観測。1923年の統計開始以来の最高気温を更新した。北西風が中部山岳を越えてフェーン現象となり、乾いた熱風が関東地方に吹き降りたことが原因とみられる。この日の最小湿度は26%で、熱中症などにより都内で48人が病院に搬送された。
参考: 気象庁 気象衛星センター「事例解説(2004年7月)」
近年でも、2020年8月17日に静岡県浜松市で41.1℃、同年9月3日に新潟県三条市で40.4℃を観測するなど、フェーン現象が関与したとみられる高温が各地で記録されています。「山から離れているから関係ない」とは言い切れないことが分かります。
参考: 日本気象協会 tenki.jp「フェーン現象は2種類」
見過ごせない危険――大火の引き金になった歴史
フェーン現象で本当に警戒すべきなのは、高温・乾燥・強風が同時に重なることで、火災が急速に燃え広がるリスクです。日本海側では、この組み合わせによる大規模な市街地火災(大火)が繰り返し発生してきました。
鳥取大火(1952年4月17日)では、フェーン現象による強い南南西の風(平均風速10.8m、最大風速22.5m)と、気温25.3℃・湿度28%という乾燥した条件が重なり、火が瞬く間に燃え広がりました。焼損棟数は7,240棟、焼損面積は44万9千平方メートル余りにのぼり、死者は資料によって2〜3人と記載が分かれています。
糸魚川市大規模火災(2016年12月22日)でも、低気圧の接近に伴うフェーン現象で最大瞬間風速27.2m/sの強い南風が吹き、飲食店の火の不始末から出火した火が飛び火。全焼120棟を含む計147棟が焼損し、負傷者17人を出しました。幸い死者は出ませんでしたが、鎮火までおよそ30時間を要しています。
参考: 鳥取大火(Wikipedia、消防庁資料等に基づく記述)、新潟県公式サイト「糸魚川市大規模火災」
フェーン現象が起きたときの備え
- 火の取り扱いに普段以上に注意する:ストーブやたき火、屋外での喫煙など、強風・乾燥時は小さな火種が大火につながりやすくなります
- 気象庁の「乾燥注意報」「強風注意報」を確認する習慣をつける:フェーン現象が予想される日は、事前に発表されることが多い情報です
- 熱中症対策を怠らない:湿度が低くても気温が高ければ熱中症のリスクは十分あります。こまめな水分・塩分補給を
- 強風による飛来物・停電にも注意する:フェーン現象は強風を伴うことが多く、看板や屋外の物が飛ばされる被害も起こります
紘一のひとこと:
「フェーン現象」と聞くと、なんとなく理科の授業の一場面のように感じてしまいますが、鳥取大火や糸魚川の大規模火災を知ると、印象が変わります。乾いた強い風が吹いている日は、いつもより火の始末を一つ丁寧にする。それだけで防げる被害があります。難しい仕組みを全部覚える必要はありません。「乾燥・高温・強風が重なったら、火に気をつける」――この一点だけ、頭の片隅に置いておいてもらえたらと思います。
まとめ
- フェーン現象は、湿った空気が山を越えて吹き下りる際に高温・乾燥した風になる現象。湿潤断熱減率(約0.5〜0.6℃/100m)と乾燥断熱減率(約1℃/100m)の差で説明できる
- 雨を伴う「熱力学的フェーン」と、伴わない「力学的フェーン」の2種類がある。日本海側だけでなく太平洋側でも起こりうる
- 2004年7月20日の東京都心39.5℃(統計開始以来の最高気温)など、記録的な高温の一因になってきた
- 鳥取大火(1952年、焼損7,240棟)、糸魚川市大規模火災(2016年、焼損147棟)など、大規模な市街地火災の引き金にもなっている
- 強風・乾燥時は火の取り扱いへの注意と熱中症対策を同時に意識することが大切
参考・出典:
日本気象協会 tenki.jp「フェーン現象は2種類 起こりやすい地域や季節は?」
気象庁 気象衛星センター「事例解説(2004年7月・東京都心39.5℃)」
気象庁「予報用語」
鳥取大火(Wikipedia)
新潟県公式サイト「糸魚川市大規模火災」
最終更新日: 2026年8月20日
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